2015.06.18

「お金をもらわない仕事」をする。

numabooks 代表 / 内沼晋太郎

numabooks 内沼晋太郎

numabooks 代表 / 内沼晋太郎 (うちぬま・しんたろう)

1980年生まれ。numabooks代表。ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。一橋大学商学部商学科卒。某国際見本市主催会社に入社し、2ヶ月で退社。往来堂書店(東京・千駄木)に勤務する傍ら、2003年book pick orchestraを設立。2006年末まで代表をつとめたのち、numabooksを設立。2012年、東京・下北沢に本屋B&Bを博報堂ケトルと協業でオープン。著書に『本の逆襲』(朝日出版社)など。

 

numabooks : http://numabooks.com/
本屋B&B :http://bookandbeer.com/

 

 

【「お金をもらわない仕事」は面白い】

内沼さんは、学生の頃はどのような活動をされていたのでしょうか。

 僕はもともと、人が様々なものに出会える「場所」を作るのが好きでした。昔から、人を集めて自分の家でパーティをしたり、クラブイベントを開催したり、皆で雑誌や作品を作ったりというのをしょっちゅうやっていて。人と人の出会いや、人とアイディアの「偶然の出会い」が生まれるような場所を作ることが喜びでした。
 今のブック・コーディネーターという仕事も、そういう喜びを得るのがやりがいです。「本屋を開きたい」という人にアイディアを提案したり、自分でも人と本が出会える場所を作ったりする。「偶然の出会い」が生まれる場所を作ることによって、新しいものが生まれる手助けをしたい、できればその瞬間を見たい、という思いがあるんです。

内沼さんはブック・コーディネーターとして、本に関わる多岐な仕事をされていると思います。仕事を選ぶ「基準」のようなものはあるのでしょうか。

 自分の仕事の何割かを、「お金をもらわない仕事」にするようにはしていますね。というのは、お金をもらえることをだけをやっていると、新しい発想が生まれにくいと思うからです。もちろん、「お金がもらえる仕事」において、クライアントの望むものを作る能力はとても重要です。でもその能力を磨くためにも、たまにはお金から離れたほうがいい。
 なぜなら、「お金がもらえる仕事」=「世の中において価値がハッキリしている仕事」だからです。世の中にある大抵の企画は、採算が取れている。採算が取れない企画は、「お金がもらえる仕事」においては、とりあえず却下されます。だからそこでは、どんな価値があるか分からないような「新しいもの」は、相対的に生まれにくい。逆に、これは「お金をもらわない仕事」なので、採算度外視でよいと最初に決めれば、「新しいもの」にチャレンジできる自由度が上がるんです。僕は世の中にない「新しいもの」を作りたいから、どれだけ「お金がもらえる仕事」が増えてきたとしても、自分の時間の中で一定量「お金をもらわない仕事」をやることにしているんです。
 また、「お金がもらえる仕事」は、どうしても依頼される内容が似通ってきます。仕事のこなし方は上手くなるので、お金も儲かるようになってきますが、それだけをやっていると徐々にやり方も固定化してきてしまって、生まれるアイディアにも飛躍が起こりにくくなります。傍らで「お金をもらわない仕事」を続けていくことで、仕事の幅も広がるし、自分自身の成長にもつながります。

あえて「お金をもらわない仕事」をやる、という考えはなぜ生まれたのでしょうか?

 そもそも僕自身、この仕事を始めた時にお金をもらえなかったからですね。僕は大学卒業後、勤めた会社を2ヶ月で辞めてしまいました。ずっと、人と本の出会い方にはもっと様々な可能性があると思っていたのですが、最初からそれがお金になるわけじゃない。だから最初は、お金をもらうどころか、自分のお金でやるしかなかったんです。でも、そういう形で「新しいもの」を作ってきたからこそ、今の自分がいると思っています。だから今でも僕は「お金をもらわない仕事」をすることを続けているんです。

「お金をもらう仕事」を面白くするために、どのようなことを心がけていらっしゃいますか?

ただ仕事を受けるのではなく、「こうしたらもっと良くなるんじゃない?」というような「逆提案」をしたりしますね。

「逆提案」とは、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか。

たとえば現在、「たびのたね」というサイトで 「本屋の旅」という連載をしています。実は当初、これは僕の連載企画じゃなかったんですよ。もともと「全国の本屋さんが自分のお店を紹介する」というコーナーとして始まる予定で、その第一弾として、僕に「B&B」(内沼さんが経営する新刊書店)を紹介してほしい、という依頼でした。
 でも、その話を受けた時、僕は担当編集者に逆提案をしたんです。本屋さんは本を売るのが仕事で、文章を書くのが仕事じゃないから、それぞれの本屋さんに書いてもらうと文章力や目線がバラバラになってしまい、面白い連載にならないかもしれない。それだったら、もし往復の交通費と宿泊費だけなんとか捻出してくれたら、僕が、全国の本屋さんを取材しますよ、と。その提案が通って、今の連載形式になりました。僕自身、全国各地の本屋さんを見てみたいし、人に伝えたいという思いがあったから、すごく良い企画になっていると思います。まあ、逆提案が上手く通るのはなかなかないので、これは幸せな例ですけどね。

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