会社の頂点に立つ経営者の立場として、代表取締役というものがあります。
また、会社のトップ経営者といったら社長、あるいは取締役社長などを連想する方も多いのではないでしょうか。
両者を混同して理解している方もいるかもしれませんが、同じ立場ではなく違いがあります。
混同されがちな代表取締役と取締役社長の違いについて、わかりやすく解説をします。
会社に勤務している方は、自分の会社の経営陣の肩書をしっかりと理解する際に役立つかもしれません。
また、お得意先の会社の組織を理解するうえでも有用な情報となるので、ぜひ参考にしてください。
この記事で分かる事
- 代表取締役は会社法上の最高責任者を表す
- 社長は会社内における役割の1つ
- 代表取締役と取締役社長を同一にするかは会社の状況を見て判断するべき
- 代表取締役と代表取締役社長にも意味の違いがある
代表取締役とは企業における会社法上の最高責任者
代表取締役は、会社法上での企業における最高責任者です。
「最高」の責任者とはいえ、代表取締役は会社に一人とは限らず、代表取締役が複数人存在する会社も少なくありません。
代表取締役は、簡単に決まるものではなく取締役会で選任される立場で、会社を代表して重要な契約締結などを行います。
取締役会は、会社の役員で構成される企業の最高意思決定機関です。
以前は会社内の社員で構成されることがほとんどでしたが、近年は外部の著名人が加わるなど、社外取締役を含めるのが一般的になってきました。
社内のメンバーだけで構成していては、一部の力のある役員だけで会社の方針が決まってしまうことが懸念されてきました。
社外取締役を加えることで、会社内の利害関係に左右されずに意見が言えるメンバーが参加することに、大きな意義が見出されています。
このような会社の最高意思決定機関である取締役会ですが、そこで選定された代表取締役はいうまでもなく、会社の中で最も大きな権限をもって会社の業務を推進していく立場となります。
会社法第349条で「株式会社の代表」と規定される
代表取締役は、会社法によって規定されている立場です。
会社法とは、2006年に制定された法律で、日本国内の会社すべてに適用されることになります。
会社の設立・運営・清算などのルールや手続きを定める法律で、日本にある会社であればどんな会社にも当てはまるため、会社の経営者なら内容を知っておくべき重要な事項といえるでしょう。
代表取締役については、会社法の第349条において規定が見られます。
- 取締役は、株式会社を代表する。ただし、他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合は、この限りでない。
- 3 株式会社(取締役会設置会社を除く。)は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができる。
- 4 代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
- 5 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
(引用:会社法)
代表取締役は、株式会社を代表して会社の業務に関するすべての行為を実行できる立場にあります。
社内の業務遂行を推し進めるのはもちろんのこと、社外とのトラブルにより裁判に及ぶ際にも、会社の代表として代表取締役が動くのが一般的な対応です。
代表取締役は、会社の重役である取締役よりもさらに上の立場で会社の業務を遂行する権限を有します
会社法第363条で取締役会設置会社における取締役の権限を規定している
また、会社法の第363条には、取締役会設置会社取締役の権限を規定した条文があります。
(引用:会社法)
- 次に掲げる取締役は、取締役会設置会社の業務を執行する。
- 一 代表取締役
二 代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定されたもの
- 2 前項各号に掲げる取締役は、三箇月に一回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならない。
ここで重要なのは、代表取締役という最高責任者であったとしても、自由に自分の意思だけで会社の運営を進められるわけではないという点です。
取締役は、あくまで取締役会で決議された業務に限って遂行できることが会社法で規定されています。
さらに、代表取締役及び取締役は、それぞれ職務執行の状況を正確に取締役会で公表する義務を有します。
代表取締役といえども、会社を自由に扱えるわけではなく、取締役会という相互牽制の効果がある存在によって行動を規制されています。
社長とは会社内における役職の一種
一方社長とは、会社内における役職の一種です。
社長は、会社内の業務を執行する最高責任者として行動します。
企業のトップであることは代表取締役と同様といえますが、社長はあくまで社内の役職の1つであるため、必ずしも社外的な責任を負う必要はありません。
「代表取締役社長」という肩書きの経営者が多いことから、社長と代表取締役は兼務するケースが一般的です。
しかし、法的根拠はなく兼務しないといけないという事ではありません。
例えば、代表取締役と取締役社長を別に設定しても構いません。
社内の実務の責任者として取締役社長が動き、対外的な重要な契約関係は代表取締役が担当するといった分業体制で臨むのも良いでしょう。
必ずしも社長を設定する必要はない
社長というのは社内における役職の一つで、法的な根拠はないため、必ずしも社長を設定する必要はありません。
法的根拠がなく設置の義務はないとはいえ、実質的にはほとんどの会社に社長は存在します。
代表取締役が複数存在する会社も少なくない一方で、社長は会社内で設定された最高責任者であるため、1人しか設定しないのが一般的です。
また、社長は会社の「顔」ともいうべき存在であるため、社長が対外的にも責任ある活動をするのが一般的です。
このため、代表取締役社長の役職を1人の社員に設定する会社の方が一般的といえるでしょう。
重大プロジェクトの契約に調印したり、巨額の融資手続きの契約者となったりするのは、やはり会社の顔である社長の方が良いと考える風潮が日本にはあります。
代表取締役と取締役社長には違いがある
代表取締役と取締役社長の間には、違いがあります。
会社の代表として動く点は共通していますが、代表取締役にしかできないことなど両者には明確な違いがあるため、混同することなく正確に区別して理解しましょう。
代表取締役と取締役社長の違いの代表的な項目は、以下の3つです。
- 代表取締役は複数人存在できるが社長は1人であるのが一般的
- 代表取締役だけが持つ権限がある
- 社長は会社業務の意思決定の最高責任者
代表取締役は複数人就任できるが社長は1人であるのが一般的
これまで紹介してきたように、代表取締役は同じ会社内で複数人の就任が可能ですが、社長は1人で担うのが一般的です。
複数人代表取締が存在するケースでは、「代表取締役社長」の他に「代表取締役会長」あるいは「代表取締役専務」のように、会社内の役職を後ろにつけて呼称することが多くみられます。
代表取締役が複数人存在することで、社内の権限設定が難しくなる恐れもあります。
しかし、対外的な手続きを複数の代表取締役で対応できる点は、機動的な事業推進の上で非常にメリットがあることだと考えられるでしょう。
社長が代表取締役の権限を持っていないというのは、対外的に考えて様々な手続きが煩雑になる恐れがあります。
会社の顔である社長と重要な商談に臨んだものの、実際に契約関係の手続きをする際には、社長とは異なる別の代表取締役とやり取りをしなければいけなくなります。
代表取締役だけが持つ権限がある
代表取締役には、取締役社長にはない権限がいくつか存在します。
いくら社長が社内における最高責任者といっても、対外的な手続きや業務の執行権の面では代表取締役に限定されていることがいくつかあるため、正確に理解することは重要であると考えられるでしょう。
代表取締役だけが持つ権限の代表例を以下に3つ紹介します。
- 株主総会・取締役会の決定事項を執行する権限
- 代表として裁判上・裁判外に関する行為を実行できる権限
- 決算書類・事業報告書などの作成及び関係各所へ提出する権限など
株主総会・取締役会の決定事項を執行する権限
代表取締役は、株主総会や取締役会で決定した事項を執行する権限を有し、実際に業務遂行に取り掛かります。
株主総会とは、会社の実質的な所有者である株主が集まって行う総会で、株式会社における最高意思決定機関といえる立ち位置です。
株主総会において決定される事項としては以下のようなものが挙げられます。
- 会社の経営上、根本的に重要な事項
- 役員の選任及び解任
- 株主の利害と密接に関わる事項
株主総会では、会社の一年間の業績や財務状況などを経営陣が発表し、それに基づいて資本の取り扱いや配当の決定を行います。
また、会社内の法律ともいえる定款の変更や改訂を行う際にも株主総会の決議が必要です。
代表取締役は会社の経営陣の代表として、株主総会で決議された内容にのっとって取締役会を取り仕切り、実際に業務を執行していく権限を有します。
実質的に会社の業務を遂行するのは、各事業部ごとの責任者及びそこに所属する社員ですが、対外的に業務執行の責任を有するのは代表取締役となります。
代表として裁判上・裁判外に関する行為を実行できる権限
代表取締役は、会社の代表として裁判やそれ以外の重要事項にかかわる行為を実行できる権限を有します。
これは、前述の会社法第349条にて法的に定められている事項です。
代表取締役が裁判に臨んで行なった裁判上の行為は、当該会社の行為として認識されるため、実質的に会社としての裁判における意思決定をしているといえるでしょう。
裁判上の行為とは、以下のような行為が当てはまります。
- 訴訟をの提起
- 訴訟代理人の選任
- 各訴訟行為の実行
裁判以外の重要事項とは、金融機関からの大規模な融資受領手続きや、会社の将来を左右する大きな契約関係書類への署名・調印などが当てはまります。
決算書類・事業報告書などの作成及び関係各所へ提出する権限など
代表取締役は、会社の代表として各種重要書類の作成及び提出の権限を有します。
該当する手続きには、以下のようなものが挙げられます。
- 株主総会及び取締役会の議事録・株主名簿・社債原簿などの作成
- 決算書類・事業報告書・付属明細書の作成及び監査役会と会計監査人への提出
- 決算書類・事業報告書の株主総会への提出
- 株券への署名及び記名押印
以上のような多岐にわたる業務について、代表取締役だけで対応するのは実質的に不可能であるため、各業務の担当取締役を選定するのが一般的です。
以上の書類対応は株式会社の義務として設定されているものばかりであるため、誤った対応をしてしまうと、代表取締役が責任を負うケースも考えられます。
代表取締役は各担当取締役から提出を受けた書類を確認し、責任をもって各方面への提出を行います。
社長は会社業務の意思決定の最高責任者
社長は、会社の業務の進行における意思決定の最高責任者としての位置づけになっている会社が大半です。
株主総会や取締役会で決定した内容の執行に関係がないとはいえ、実質的に会社の業務を先頭に立って遂行していく立場と考えて差し支えありません。
会社の営業方針の決定や社員及び役員の教育、人材の配置の検討など実務的な会社の業務を効率よく遂行するための対応を行う役職です。
役職としての性質上、代表取締役社長として、対外的にも社内的にも代表として活動するケースが多いです。
社長と同等の位置づけの呼称は他にもある
近年は、社長と同等の位置づけの呼称もあり、利用する会社が増えています。
社長という役職名は、日本の会社では一般的な名称です。
会社の顔・代表者を表現するうえで、社長という名称は昔からなじみのある言い方といえるかもしれません。
しかし、代表取締役が会社法で定義されているのに対し、社長の名称は一つの役職名にとどまり、法的な規定はありません。
主に海外で利用されることが多い呼称を取り入れる日本の会社も増加傾向にあり、社長という名称の人がいない会社は今後も増えていくかもしれません。
最高経営責任者であるCEO
社長という呼称の代わりに、「CEO」を利用する会社も多くなっています。
CEOとは「Chief Executive Officer」の略称で、「最高経営責任者」をあらわします。
CEOは、アメリカを中心に欧米各国で利用されている呼称の1つです。
CEOはアメリカの法律で規定があり、会社内で認定されている公的な肩書の1つといえます。
しかし、日本の会社でCEOを使用する場合にはアメリカの法律は関係がないため、実質的に社長と同じように自由に設定できる役職名の1つと考えて差し支えありません。
企業活動は国際化が進んでいることから、CEOの呼称を使って海外法人とも違和感なくやり取りできるように考える会社が増えています。
代表権所有の確認は登記情報で可能
代表権を持っているかどうか確認したい場合は、当該会社の登記情報をチェックする方法があります。
契約などの手続きの際に、代表取締役の肩書が本当か確認しておきたい場合などに役に立つ方法です。
株式会社を設立する際には、法務局への登記手続きが義務付けられています。
その中には代表取締役についての登録も含まれているため、登記情報をチェックすると代表取締役の確認が可能です。
登記情報は法務局へ申請すると誰でも取得が可能であるため、確認をしておきたい場合は活用しましょう。
代表取締役と社長は同一人物であるべきか
以上で紹介してきたように、代表取締役と社長は同一人物である必要はありません。
実務的に同一人物である方が効率の良い面があるため、同一としている会社が多いです。
代表取締役と社長は同一にするべきか、一概に決定するのは難しい面があります。
会社の人員構成や業種・事業規模や主要な顧客の属性などによって、代表取締役と社長が同じ方が良いケースとそうでないケースがあり得ます。
意思決定者は複数いると混乱する可能性
代表取締役と社長を別の人が担う場合、意思決定者が複数人存在することになります。
意思決定者が複数いると、意思決定に時間がかかり業務がスムーズに行かず混乱を招く危険があります。
特に代表取締役と社長の意見が合わず、お互いに譲らない性格であった場合、業務上の意思決定がなされず業務に支障が及ぶ可能性が多くなるでしょう。
共同創業者など代表取締役が複数人いる方がよい場合もある
しかし、逆に代表取締役が複数人いて、かつ代表取締役と社長が別の方が良い場合もあり得ます。
例えば、会社を立ち上げた時のメンバーが2人だった場合、1人を代表取締役社長とするともう一方の創業者に不満が募る危険があります。
共同創業者に平等に権限を持たせ、意見交換を交わしながら業務上の最適な選択を行っていくという形式は、独裁的な運営を防止する意味でも効果があるでしょう。
会社ごとに事情は異なるため、人員や財務的な状況なども含めどんな権限分与を行うかしっかり検討することが大事です。
代表取締役と代表取締役社長にも違いがある
代表取締役と代表取締役社長という名称にも、それぞれに違いがあります。
代表取締役社長の名称で兼任するケースが一般的ですが、社長とは別に代表取締役を選定している会社も少なくありません。
会社法的には同等の立場
代表取締役と代表取締役社長は、会社法上では違いがありません。
いずれも代表取締役の権限を有しているという点で、会社法においては同義と考えられるためです。
社長という名称が入っている代表取締役の方が、社内の業務執行の最高責任者という立場に立って、会社を先導していくことになるでしょう。
しかし、株主総会や決算発表・各方面への情報発信は、社長ではない代表取締役でも対応できます。
対外的に先頭に立って手続きを遂行する代表取締役を選定し、社内の管理を行う社長とのすみわけを図る会社も少なくありません。
対外的な契約書上での使い分けが必要
対外的な契約書上では、代表取締役と代表取締役社長の使い分けが必要になるケースもあります。
代表取締役社長の人が契約書上の契約者となる際には、「代表取締役社長」と社長を含めた肩書にするケースが一般的です。
社長を付ける義務はもちろんありませんが、会社における立場を明確にするためにも、契約書上には社長まですべて記載することが多いです。
契約書に署名する際は、社長でない代表取締役と明確に区別するのが一般的であると考えるべきでしょう。
名刺の肩書を記載する場合には社長を記載しないこともある
代表取締役社長が自身の名刺を作る際には、肩書きの記載を「代表取締役」とし、社長の呼称を含めないことがあります。
前述のように、社長という呼称は会社内の役職の1つであるため、対外的に法的な意味はありません。
社長という呼称があってもなくても「代表取締役」という名称が入っていると、社会的な地位は全く同等といえます。
このため、社外の顧客や関係者に配布して自己紹介をする際の名刺には、社長の呼称を含める必要は無いと考える会社は少なくありません。
社長という役職名に対しての考え方は会社によって異なるため、どの表記の仕方が正しいのか、一概に決めることは難しいでしょう。
まとめ
代表取締役と取締役社長には、明確な違いがあります。
- 代表取締役は会社法で定められた法的な呼称
- 社長は会社内の役職名の1つと考えられ、法的根拠はない
- 代表取締役は複数名存在できるが、社長は通常1名のみ
- 代表取締役には対外的な業務を執行できる権限がある
実質的には、「代表取締役社長」という呼称を用いて代表取締役の権限と社長の立場を兼任するケースが多いです。
しかし、会社によっては社長と代表取締役を別にしているケースや、複数名の代表取締役を設定しているケースがあります。
顧客とのやり取りをする際に、相手方の会社の経営陣についてよく理解しておかないと、思わぬ誤解を招いてしまう恐れがあります。
代表取締役と取締役社長の違いについての明確な理解により、営業活動にプラスになるケースも考えられるため、しっかりと整理しましょう。